鹿児島県教育研究集会の開催に際して

 県下各地から、第73次の教育研究集会にご参集いただきました、分科会の正会員、司会者、共同研究者、オブザーバー参加のみなさん、本当にありがとうございます。
 そして、お忙しい中ご臨席いただきました来賓のみなさまに、心から感謝を申し上げます。ありがとうございます。

 また、本会場を提供してくださいました、谷山北中学校分会のみなさんと、会場準備等をしてくださいました、鹿児島支部のみなさんにお礼を申し上げます。
 3年ぶりに開会行事をすることができました。やはり、こうして集まれるというのは、本当にいいなあと思います。感染症の収束は見えませんけれども、こうして少しずつ、感染症以前の生活や組合運動を、とり戻していく時がきたのかなあというふうに思っています。

 さて、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で始まった戦争は、多くの市民を犠牲にして泥沼化しています。住宅や学校が破壊されて、数多くの子どもたちが犠牲になっています。ロシアの行為は、国際関係における武力による威嚇または武力の行使を禁じた国連憲章第2条4項に違反する主権国家の侵害です。ロシアは一刻も早くこの戦争をやめるべきです。
 また、アメリカやイギリスが、ウクライナに対してたくさんの武器を提供してウクライナを支援していますが、見方を変えれば、ウクライナはアメリカやイギリスの持ち駒としてロシアと激しい戦争をさせられているようにも見えます。
 そして日本国内では、この戦争に乗じて中国脅威論、台湾有事論が喧伝され、沖縄の離島から奄美、馬毛島、鹿屋、九州北部にまで及ぶ軍備増強がすすめられています。さらに、参議院選挙の結果とも相まって、憲法9条が危機に晒されています。

 私たちは子どもたちと共に歴史を学び、史実と真実にもとづき深く考え、人類を危機にさらすような過去の過ちを繰り返さないようにしようとしています。
 しかしながら、世界のリーダーたちは、愚かな選択を繰り返しています。
 日本がアメリカの持ち駒として、中国と戦争をさせられるようなことがあってはなりません。私たちには、平和な世界を子どもたちに引き継ぐ責務があるんだということを、本日この場でみなさんと共有したいと思います。

 平和ガイドのボランティアをしている長崎県教組のある組合員は、フィールドワークに来た教職員にこんな話をするそうです。「戦争の加害の歴史にしろ、被害の歴史にしろ、そうした歴史を基にした平和教育をするだけでは、平和は守れないんですよ。平和教育の最後には必ず子どもたちに『戦争はいやだと思う人は、大人になったら必ず選挙に行って、その1点の意思表示をしてください。』という言葉を添えて平和教育を締めくくってください」と。平和を願う思いを投票行動に導く。私たちの平和教育運動には、そのことが欠けていたのではないでしょうか。
 日本が子どもの権利条約を批准して28年めになりますが、私たちは子どもの権利条約や憲法の理念に基づいて、子どもの意見表明権が十分に保障され、子どもの最善の利益が守られている学校を作り得ているでしょうか。
 校則ひとつをとってみても、子どもが意見表明する機会もないままに、子どもたちの人権を侵害するような校則がありはしないでしょうか。そうした校則が往々にして、差別やいじめの原因にもなっていますし、性的マイノリティの子どもを追い詰めてもいます。
 昨年度の県教研では、「校則の見直し」をテーマにした特別分科会を設定しました。分科会での子どもたちや保護者の方々の発言から、あらためて浮き彫りになったのは、私たち教職員が校則見直しの最大の抵抗勢力であるということでした。
 また、世田谷区立桜丘中学校の校長時代に校則をなくした西郷孝彦さんを講師にお招きして、市民の集いを開催しました。西郷さんの講演からは、校則をなくしたことで、いろんなことを考えるようになって変容し、輝き始めたのは、子どもたちばかりではなく、むしろ教職員であることがわかりました。
 校則がないからこそ、子どもも教職員もいろんなことを考えるようになる。これは、教わる者、教える者、どちらにとっても教育の原点だと思います。
 本日もこの体育館で、校則に関する特別分科会を開催いたします。参加される教職員のみなさん、子どもたちや保護者、地域の方々と十分な意見交換をして、校則の見直しや廃止を県内の各学校に発信する分科会にしていただけたら幸いです。

 政府のGIGAスクール構想で、全国の小中学生に一人1台のタブレットが配布されています。福岡県の久留米市が、九州でも全国でもいち早く小中学生にタブレットを導入しました。このタブレットにはグーグルのOSが搭載されていました。当時、グーグルのアジア太平洋マーケティング統括本部長は、テレビに出演してこう言っています。「蓄積される個人データの扱いについては、文科省のガイドラインに準拠しています」と。この言葉から明らかなように、子どもたちがタブレットを使うたびに、テック企業が子どもの情報を吸い上げて、一人ひとりの子どもの情報が、テック企業の中に蓄積されるということです。この子が何を検索して何に興味があるのか、何を理解していて何を理解していないのか、テック企業は一人ひとりの子どものデータを分析して、あらたな教育ビジネスを生み出し、教育がさらに商品になっていきます。

 タブレットが、子どもたちの成長過程に与える影響も考える必要があります。テック企業の創業者であるビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは、自分の子どもたちに14歳頃までスマホやタブレットを持たせなかったそうです
 テック企業が立ち並ぶアメリカ西海岸のシリコンバレーの、テック企業幹部の子どもたちが通う一番人気のある学校では、13歳より前の子どもたちはデジタル機器に触れさせないそうです。その理由は、デジタル機器は、子どもの健康な身体、創造性と芸術性、規律と自制の習慣や、柔らかい頭と機敏な精神を発達させる能力を妨げるからだとその学校は説明しています。テック企業の創業者もテック企業の幹部も、デジタルの専門家だからこそ、デジタル機器が10代前半までの子どもに与える危険性を分っているということです。
 私たちはこうしたことを知ったうえで、タブレットをどうとり扱うのかを考えなければならないと思います。

 最後になりますが、1951年に開催された第1回全国教研の冒頭のあいさつで、日教組の岡委員長は次のように言っています。「その国の教育をめぐる歴史的・社会的地域の現実としっかりと向き合い、地域ごとに、各県ごとに、相互に討議、討論して、それを全国的に積み上げていくという、世界の労働組合の歴史にも、あるいは、古今の教育の歴史にも、かつてないところの大事業の糸口が今、大胆につけられたのです」と。
 教職員組合に集う私たちが、勤務労働条件改善のための組織運動や政策制度要求実現のための政治運動をするのはもちろんですが、職能団体ではない労働組合が、教育研究活動をするというところに、教職員組合の存在意義があります。

 鹿児島県教職員組合、鹿児島県高等学校教職員組合は、これからも、「平和を守り真実を貫く民主教育の確立」と「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンのもと、自主・民主・公開の原則にもとづく教育研究集会をはじめとする教研活動を推進して、「教育の自由」を守っていくということを、ご来場のみなさんにお約束いたしまして、両教職員組合を代表してのあいさつとさせていただきます。